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CDMA移動体通信システム
Ramjee Prasad 著
倉本 貫 監修
安達 文幸 訳
19,800円
A5 432頁
4-87653-018-1 C3050
本書は、次世代のワイヤレス・コミュニケーション・システムである符号分割多重接続 (CDMA) 通信方式の理論と実際の応用について体系的に詳細に記述された最初の専門技術書である。

符号分割多重アクセス(CDMA)は、ディジタル携帯電話システムの標準の一つとしてわが国でのその採用が決定し、また、第3世代移動通信システムの無線アクセス方式としてわが国でも有望視されており、その技術書の出現が各方面から待ち望まれていた。CDMA研究の世界的権威者であり、わが国にもなじみの深い Prasad教授による本書は、まさにその期待に答えるものだ。近年、第3世代移動通信システムの実現に向けた研究開発が、世界中で活発に進められていり、符号分割多重アクセス(CDMA)は、第三世代の無線アクセスの有力候補として期待され、多くの研究開発がなされている。

本書は、CDMAについて、特にパケット通信への応用を中心に、最新のCDMA技術を体系的にまとめたものである。移動通信を対象にしてCDMAを広範に論じたものとしては本書が世界で最初の専門技術書である。本書は、そのCDMA技術について体系的に取りまとめたものである。移動通信を対象にしてCDMAを広範に論じたものとしては本書が初めてである。

本書の内容の紹介に入る前に、移動通信の動向について若干触れ、CDMA技術への期待について述べる。

ディジタル移動通信の動向

無線アクセス技術には、周波数分割多重アクセス(FDMA)、時分割多重アクセス(TDMA)とCDMAとがある。FDMAは帯域を細かく分割し、通信時には各ユーザにそのうちの一つを割り当てる。移動通信の世界では、TDMAおよびCDMAをFDMAと組み合わせて用いるのが一般的である。TDMAは時間軸を一定間隔のスロットに区切り、各ユーザに特定のスロットを割り当てる。一方、CDMAでは時間の代わりに、各ユーザには信号を広い帯域へ拡散するための拡散符号を割り当てる。

第1世代の公衆陸上移動通信はFDMAを用いるアナログ方式、第2世代が1990年代前半にサービスが始まったディジタル方式で、日本はPDC、欧州はGSM、北米はIS54といわれ、無線アクセスはいずれもTDMAである。北米では、その後IS95といわれるCDMAを用いるディジタル・セルラ方式も標準化されている。


最近のユーザ数の伸びは爆発的で、日本では人口の20%に達しようとしている。第1と第2世代のセルラ移動通信では800から900MHz帯の周波数を利用している。日本では、人口密度の多い地域を対象に1.8GHz帯でTDMA−TDDを用いるPHSサービスも展開されている。しかし、これらの周波数帯ではこの爆発的に増え続けるユーザ数を収容しきれなくなる日が近い。第2世代の移動通信の中心的サービスは会話である。移動通信の伝播環境は劣悪である。フェージングにより受信レベルが高速に変動する。アナログ方式ではこのフェージングの影響を受け易かったが、無線伝送のディジタル化により通信品質が飛躍的に向上した。最近は、移動通信でのデータ伝送の需要が伸びている。伝送レートは10kビット/秒前後である。しかし、これから、ますます、音声以外のデータ系サービスの需要が伸びてくるものと予測されている。第3世代移動通信の中心は、音声のみならず、高速のインターネット、画像通信などのマルチメディア・サービスであると期待されているのである。

第1と第2世代では音声伝送が中心のサービスであるので、伝送レートはほとんど一定である。マルチメディアの時代には、低速から高速レートまで幅広い伝送が要求されよう。様々な伝送レートの通信を行うときTDMAでは割り当てるスロットの数を変えればよい。しかし、最大レートには制限がある。これは、1つの無線キャリアで運べるスロットの最大数に、フェージングやピーク送信電力の制約から、制限があるためである。一方、CDMAでは単に符号の数あるいは符号の周期を伝送レートに応じて変えるだけで良いから、かなり簡単である。伝送レートに応じて送信電力ピークが高くなるだけである。また、TDMAでは伝送品質の劣化要因であったフェージングを効果的に利用する能力を備えているから、品質を向上できる。

CDMAシステムの優れた点としては、更に、


1)ソフト・キャパシティ(システムの収容能力にはっきりした限界がないこと)、
2)ソフト・ハンドオーバー、
3)高いスペクトル利用効率、
4)簡単な周波数の割り当てとシステム展開、などである。


2)は広いエリアでサービス提供するセルラ移動通信における品質向上技術として重要である。これらの点が、CDMAがマルチメディア時代の移動通信アクセス技術の有力候補と考えられている理由である。

CDMAはTDMAなどの競合のない多重アクセスとALOHAなどの競合のある多重アクセスとの中間に位置する極めて興味深い多重アクセス方式である。従って、屋内および屋外移動通信の他、移動体衛星通信への応用、更には回線交換モードやパケットモードの通信への応用、など広範囲の応用が考えられる。CDMAは単独でもTDMAにない優れた点を多く持っているが、他のアクセス方式と組み合わせてより多くの利点を引き出そうという考えもある。ハイブリッドCDMAは、直接拡散(DS)や周波数ホッピング(FH)CDMAなど2つのタイプのCDMAを組み合わせたものを指している。ALOHAやTDMAと組み合わせたCDMAや、直交周波数分割多重(OFDM)などを組み合わせたCDMAも、ハイブリッドCDMAと言われる。

本書は、CDMAおよびハイブリッドCDMAを多重アクセスの観点から論じている。特に、CDMAネットワークでの無線パケットのスループットと遅延について詳しく理論解析している。無線システムの設計・評価に当たっては電波伝播の性質を理解することが重要である。この知識なしに、優れた移動通信システムの設計は成し得ないだろう。本書では、基本的な広帯域伝播モデルについても分かり易く説明されている。

本書の内容

本書は11章より構成されている。第2章は「多重アクセス技術の概論」であり、CDMAの他、TDMA、FDMAの他、ALOHA、CSMA(キャリアセンス多重アクセス)、ISMA、PRMA(パケット予約多重アクセス)、スタックアルゴリズムなどのよく知られたランダム多重アクセスについて、それぞれの特徴が分かりやすく整理されている。移動通信では、各ユーザの基地局での受信電力が異なるので、固定網におけるランダム多重アクセスとはまったく異なった振る舞いが見られる。複数のパケットが衝突してもいずれか一つが生き残る確率が高いのである。これは捕捉(キャプチャ)効果と呼ばれている。捕捉効果を有する移動通信伝播環境におけるスロットALOHAおよびISMAについて興味ある議論が展開されている。

第3章では、「CDMAシステムの概念」が述べられている。DS、FH、時間ホッピング(TH)およびハイブリッドCDMAの原理が分かりやすく説明されている。CDMAではユーザの分離に拡散符号の相関特性を利用しているから、スペクトル拡散符号がシステムの特性を左右する。広く用いられているゴーレイ符号の相関特性や生成原理について非常に分かりやすく述べられている。

DS−CDMAを移動通信に適用するときの最も重要な課題は送信電力制御である。全てのユーザは、同時に同一周波数帯域を用いて送信するので、ユーザは互いに干渉を与えることになる。基地局に近いユーザの端末から基地局が受信した信号は、無線セル境界近傍の他のユーザ端末から受信した信号よりも遥かに強い(これは遠近問題として知られている)。受信電力に差があるとユーザ間の分離がうまくできなくなる。このような遠近問題の解決法の1つが送信電力制御である。

第4章でこの「送信電力制御」の問題を扱っている。遠近効果をモデル化し、トラヒックの一般化空間分布を用いて、送信電力制御の不完全性がシステム容量にどのように影響するか明らかにしている。第5章から7章は、DS−CDMAシステムの屋内、屋外、衛星への応用について述べている。

第5章では、まず、「屋内無線通信路の伝播特性」について概説している。フェージングは見通し成分のある、いわゆるライスフェージングで特徴付けられる。無線通信路複数の独立のライスフェージングするパスでモデル化し、コーヒレンス帯域幅と伝播遅延広がりとの関係や、コーヒレンス時間幅とドップラ広がりとの関係について論じている。その後、ビット誤り率を評価する解析モデルを提示し、誤り訂正符号化およびダイバーシチ技術(最大比合成と選択ダイバーシチの2つを考えている)の効果を解析している。帯域幅と処理利得が一定であるという拘束条件のもとでは最大ビットレートが低下するものの、誤り訂正符号化によって特性を改善できることを明らかにしている。モンテカルロ・シミュレーションによって解析結果の妥当性が確認されている。

さらに、「星状接続DS-CDMAネットワークのパケットスループットと遅延解析」を行っている。遠近問題を解決するための送信電力制御を適用すると、捕捉効果が失われると思われるがそうではない。DS−CDMAでは、優れた相互相関を持つ拡散符号を用いれば、パケットが衝突しても複数が生き残れる。これによってスループットが大きく改善するばかりか、無線セル内で均質な品質でのサービスが可能となる(送信電力制御を用いなければ、セル端に存在するユーザのスループットはかなり低い)。このことが明快に示されている。

第6章では、「屋外セルラDS−CDMAシステム」について、マクロセルおよびマイクロセル環境下でのビット誤り率、スループットおよび遅延特性を評価している。屋外システムには屋内システムとは基本的な違いがある。まず、屋外システムのサービスエリアは屋内システムに比べて遥かに広いこと、屋内セルではしばしば金属遮蔽を有する壁や天井でセルが分離されているのに対して屋外セルは電波伝播特性によってしか分離されないことである。マイクロセルでは見通し伝播路があるが、マクロセルではこれがない。マイクロセルとマクロセルとの両方を記述できるモデルとしてライスフェージングを用いている。ライス係数(見通しパス対散乱パス電力比)の大きさでマイクロセルとマクロセルの両方を記述しようという考えである。セルラ方式の考え方は、割り当てられた周波数帯を、地理的に規則正しく離れたセルで繰り返し利用するというものである。各無線セルはそれぞれ、基地局によってカバーされている。ユーザ間の相互干渉を妨害とならない程度に低く抑えるため、隣接セルでは異なる周波数を使用する。システムの全帯域幅を使い切る隣接セルの総数はクラスタサイズと呼ばれる。マイクロセル(0.4−2km)とマクロセル(2−20km)とで、周波数効率を最大とする意味で最適なクラスタサイズが異なるという、興味深い結論が導かれている。マクロセルでは、各セルで全システム帯域を使用する(クラスタサイズ=1)ときに最大周波数効率が得られる。すなわち、拡散符号長をできるだけ長くした方が同一周波数のセルを地理的に分離するよりも効果的であるということである。マイクロセルのときは単純ではないという結果が示されている。以上の結果は、フェージングモデルと関連している。

第7章は、「移動体衛星CDMAシステム」について述べている。伝播路を対数正規シャドウイングのあるライスフェージングでモデル化し、ビット誤り率、スループットおよび遅延特性を評価している。狭帯域スロットALOHAとDS−CDMAの特性も比較されていて興味深い。

第8章は、「屋内無線通信におけるハイブリッドDS/SFH−CDMA」を扱った章である。このハイブリッド方式は、直接拡散(DS)と周波数ホッピング(FH)の利点を組み合せると同時にそれぞれの欠点はある程度回避することができる可能性があり、魅力的である。本章では、ビット誤り率、スループットと遅延特性に及ぼす誤り訂正符号化とダイバーシチ技術の影響についても言及している。

第9章は、「マルコフ連鎖モデルを用いてスロットDS−CDMAのビット誤り率、スループット、遅延特性および安定性」を解析している。誤り訂正符号化はシステムをより安定化させること、ライスフェージングになるとスループットが向上することを明らかにしている。

第10章は、「ハイブリッドCDMA/ISMAの屋内無線計算機ネットワークへの応用」について述べている。ハイブリッドCDMA/ISMAには大きな特徴が2つある。すなわち、


全トラヒックを中央基地局を介してルーチングすることで隠れ端末問題を解決できる。


ユーザ間で拡散符号を共有させることで、比較的少ない数の短周期符号を用いて多くのユーザを計算機ネットワークに収容できること、である。


第9章と同じく、マルコフ連鎖モデルを用いて特性を解析し、解析結果を計算機シミュレーションにより検証している。

第11章は、「CDMAシステムの特性を更に飛躍させる技術」を述べている。CDMAシステムの品質は自己干渉および他ユーザ干渉で決まるから、干渉をうまく除去できればシステム容量を飛躍的に向上させることができる。また、送信電力制御に要求される条件を緩和できる。このための技術として干渉キャンセルやジョイント検出などがある。これらについて最近の研究成果が分かりやすくまとめられている。また、拡散符号同期に及ぼすフェージングの影響ついても述べられている。狭帯域TDMAとの共存は、第3世代システムへの移行時には重要な課題である。狭帯域干渉を適応フィルタにより除去する方法についても検討している。

さらに、本章では、OFDMとCDMAとの組み合わせ、すなわちマルチキャリア(MC)−CDMAについても言及し、DS−CDMAとMC−CDMAとが等価であるとの興味ある結論を導き出している。

以上のように、本書ではCDMAの基礎から最新の研究成果まで網羅されており、これからますます注目を集めるであろうCDMAについて理解する上で格好の技術書であると言えよう。

書評:「日経エレクトロニクス」(1997年9月22日号)

 
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