一方,移動通信や室内無線通信(無線LAN)などで電波伝搬構造を詳細に把握するためには多重到来波(マルチパス波)の分離推定が重要となる.また,不法電波の発信源を特定するためにも電波の到来方向を正確に推定する技術が望まれる.アレーアンテナによる到来方向推定法として,古くには,アレーアンテナのメインビームを走査させて到来方向を推定する方法(beamformer法)がある.これはフーリエ変換と等価な方法で,分解能がアレーの開口長によって制限される.それ故,より高い分解能をもつ手法が望まれた.その後,Capon法,最大エントロピー法や他の線形予測法などが登場し,その高い分解能特性が報告されてきている.さらにアレー入力の相関行列の固有展開に基づくMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)やESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques) が提案され,超分解能とも呼ばれるすぐれた特性を有するため現在もっとも注目を浴びている.これら到来方向推定法の発展はアダプティブアレーと異にしているが,その原理はアダプティブアレーと密接に関係しており,アダプティブアレーの一特性を利用したものと解釈できる.