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スペクトル拡散通信入門 |
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Roger L. Peterson 他著
丸林 元 他訳
黒木 聖司 他訳 |
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16,000円 |
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A5 864頁 |
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4-87653-058-0 C3055 |
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本書は、近年移動体通信などにおいて脚光を浴びているスペクトル拡散通信について、その基本的な事項からセルラ移動通信システムなどにおける最新の応用までを解説したものである。スペクトル拡散通信の理論と応用を学ぼうとする技術者、またこの分野の研究・開発に携わる人たちや大学院生レベルの入門書として、必要なことはすべて本書で網羅されている。
本書の特徴として、スペクトル拡散通信の基本から応用までの各項目について、簡潔かつ平易に記述されていること、特に重要な部分では具体例を織り交ぜながら、詳しい説明がされていることがあげられる。また読者が本書の内容を理解するのに必要な数表や公式、あるいは本書に述べられているシステムの性能を計算して確認する際に必要となる関数については、MATLABプログラムが示されており、実際に計算機で確認しやすいように配慮がされている。
本書の構成
第1章は序論として、一般的なデジタル通信方式について概説している。フーリエ理論のアナログ変調システムにおける応用を含む基礎的な通信理論や、確率と確率過程について学んだ者が、ここでデジタル通信方式を十分に理解することにより、本書を通じてスペクトル拡散通信システムを理解できるような配慮がされている。その他スペクトル拡散通信システムの理解に必要な背景についても述べられている。
第2章ではスペクトル拡散変調の概要、および用いられる理由について述べている。ここでは直接拡散(DS)方式、周波数ホッピング(FH)方式、ハイブリッドDS/FH 方式等、広く一般的に用いられているスペクトル拡散変調方式について解説する。
第3章では、スペクトル拡散通信システムにおいて重要となるPN(擬似雑音)系列の発生について取り扱っている。ここでは、線形フィードバックシフトレジスタを用いた擬似雑音(PN)系列の生成の概要とその特性について解説している。Gold符号や非線形符号等の系列についても簡潔に述べられている。
第4章と第5章では、スペクトル拡散通信システムにおいて重要な機能である受信側で発生する逆拡散用符号と伝送路の拡散符号との同期確立について取り扱っている。この同期確立の過程は、同期捕捉と同期追跡の二つの段階に分けられる。同期捕捉は同期追跡に比べ数学的に解析することが困難であるため、同期追跡を先に第4章で取り扱っている。
第4章では、DS方式の同期追跡方法として遅延ロックループ(DLL)とタウ・ディザループ(TDL)法について解説がされている。適当な式の操作とループ内での信号と雑音のプロセスの定義により、前記の符号追跡ループの解析は従来のPLL(位相同期ループ)の解析法と同様に取り扱える 。このことから、付録?にPLL理論についての簡単な解説がされており、学習者への便が図られている。最後に、FH方式における同期追跡法についても述べられている。
第5章では、スペクトル拡散通信方式の中で最も困難と考えられる拡散波形の初期同期について、包括的に取り扱っている。
まずシリアルサーチを用いた最も簡単な同期捕捉技術について述べる。つづいて階段型シリアルサーチについての一般的な解析を行い、また複数休止時間シリアルサーチについて解説する。さらにシーケンシャルディテクション技術についての詳細な解析を行なう。最後にマッチドフィルタを用いた同期技術について簡単に解説する。
第6章では、ジャミング環境下でのスペクトル拡散通信システムの特性解析について述べられている。
まず初めに連続性雑音、部分帯域雑音、パルス雑音、あるいは単一または複数のトーンによるジャミングを含むシステムモデルについて述べる。つづいて、様々な種類のジャミングに対する誤り訂正符号を用いないスペクトル拡散通信システムの性能評価を行う。ここでは誤り訂正符号がスペクトル拡散システムを保護するために不可欠な構成要素であるという結論を出している。
第7章では前章の結論を受けて、前方誤り訂正を用いたスペクトル拡散通信システムの性能について述べている。
まず、初歩的なブロック符号およびたたみ込み符号について、その基本的な符号化ならびに復号法、誤り率特性について概説する。誤り訂正符号についてあまり詳しくない人たちのために、たたみこみ符号のViterbi復号アルゴリズムなどについてもこの章では扱っている。その後BCH符号、リード・ソロモン符号、たたみこみ符号といった符号化法を用いた場合のスペクトル拡散通信システムの性能について述べる。あわせて交錯法(インターリーブ)、および符号化による性能改善の限界についても解説する。
第8章では、フェージング通信路について述べる。これは、第9章で扱われるセルラ移動通信網におけるCDMA(符号分割多元接続)システムの性能評価の際に必要となる知識である。一般的なフェージング通信路の統計的モデルはWSSUS(広義の定常無相関散乱)フェージングモデルである。そしてWSSUSフェージングモデルの、時間選択性フェージング、周波数選択性フェージングなどへの特殊化について述べる。このフェージングモデルを用いた陸上移動通信路の短時間変動特性のモデル化について解説した後、自然対数フェージングによる移動通信路のシャドウイングによる長時間変動特性についても述べる。最後に、フェージングに対する特性を改善する手法であるダイバーシチについて、そのモデリング、ダイバーシチ合成法、スペクトル拡散方式で用いられるRAKE受信機について解説する。
第9章ではスペクトル拡散のCDMAデジタルセルラシステムへの応用を取り扱う。周波数再利用についての概要を含んだセルラシステムの基本的な概要についてまず解説する。次に、簡単な計算やモンテカルロシミュレーションによる他チャネル干渉保護予測を扱う。そして、周波数領域の容量とCDMAセルラシステムについて解説し、その後に北アメリカのCDMAシステム、1970年代後半にCopperとNettletonにより提案されたFH方式によるCDMAシステム、Bell研究所から提案された多レベルFSK−FHシステム、ヨーロッパのGSM方式に採用されているslow−FHシステム、そしてパーソナル通信の応用のためのハイブリッドFH TDMA/CDMAシステムを含んだCDMAデジタルセルラシステムについて解説する。
第10章では、スペクトル拡散信号の非共有的な検索方法と、符号クロックレートなどのようなパラメータの抽出方法について解説している。まずスペクトル拡散信号の広帯域エネルギー抽出と、DSやFH信号の検索のための最適受信機について述べる。次に、FHまたはハイブリッドスペクトル拡散通信システムの最適な検波器の近似として、論理和操作による検波を組み合わせたブロック移動窓検波器で各チャネルを分離する受信機について考察する。最後に、符号クロックレート抽出のための遅延乗算受信機の考察、ならびに意図しない妨害者に対して、この抽出を可能な限り困難にするためのスペクトル拡散信号の最適化についての考察を述べる。
本書は、スペクトル拡散通信、CDMAシステムの研究開発に携わる技術者・研究者の必読書であり、また大学院におけるスペクトル拡散通信に関する授業のテキストとしても好適である。 |
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