フーリエ級数およびフーリエ積分は、物理の分野では一つの哲学であり、電気電子工学を学ぼうとする学生には必須の数学である。すなわち、時間の座標上で現れている現象を周波数の座標で表現するものがフーリエ級数およびフーリエ積分である。時間と周波数は一対一の関係が有り、時間特性として特徴付けられるものは全て周波数特性で特徴付けられ、またその逆も成立する。しかし、線形システムの場合、時間応答よりも周波数応答の方がそのシステムを特徴付け易い場合が多い。例えば、室内の音響特性を特徴付けるのに利用されるのは周波数特性であろう。
また、基準信号の様な時間的特性がはっきり規定されたものばかりでなく、音声信号や雑音の様な統計的性質のみが既知なものに対してもフーリエ解析を利用することにより、エレガントに特徴付けることができる。このため、回路や電気・機械システムの周波数応答と時間応答ばかりでなく、通信分野での信号の変調や雑音の問題、ひいてはディジタル信号処理に至る電気電子工学のほとんど全ての分野で、フーリエ級数並びにフーリエ積分は頻繁に利用される。
ここでは、電気電子工学系の学生や技術者を対象として、まず時間と周波数をエレガントに関係付ける、フーリエ解析の数学的取り扱い及び物理的意味を示す。そして、フーリエ解析により、線形システム、確率システム、信号伝送等の電気電子工学で取り扱う多くの問題がいかに巧妙に取り扱えることが示される。
本書の内容
第1章 直交関数系と留数定理
フーリエ解析における数学的取り扱いの基礎となる、関数の線形性、直交性、完全性を復習すると共に、それらの性質がどの様な物理的意味を持つかが述べられている。さらに、フーリエ解析に頻繁に現れる複素積分の基礎についても簡単に説明されている。
第2章 フーリエ級数
時間的に周期的な関数を種々の周期を持つ正弦波関数の集合として表現するフーリエ展開とその数学的取り扱いが扱われている。種々の関数のフーリエ展開を求め、その一般的性質を知ると共に、関数の積分、微分がそのフーリエ展開に及ぼす影響を示している。さらに、フーリエ展開並びにそれに関連して導かれるパーシバールの定理によって、電気電子工学に現れるいくつかの問題を実際に解析する。
第3章 フーリエ変換
フーリエ展開の拡張として、一般の関数を正弦波関数の集合体として表現するフーリエ級数とその数学的取り扱いを述べられている。一般の関数と共にいくつかの特殊関数のフーリエ変換を求め、さらにフーリエ級数やラプラス変換との関係を示し、さらに、フーリエ変換によって電気電子工学の諸問題がいかに巧妙に解析できるかを示す。
第4章 時間領域と周波数領域
線形システムにおいて、時間応答と周波数応答は独立ではなく、フーリエ変換により関係付けられる。即ち、任意の信号を入力した時の線形システムの応答はインパルス応答によって特徴付けられる。そして、負の時間ではインパルス応答は零であること(因果律)から、システムの周波数応答の実部と虚部はヒルベルト変換で結ばれることが導かれる。本章では、線形システムにおける時間応答と周波数応答がどの様な関係で結ばれるかを詳細に説明すると共に、それらの関係が実際にシステムにおいてどの様な重要性を持のかをいくつかの例を挙げて明らかにする。
第5章 相関と雑音
フーリエ変換は、既知な関数ばかりでなく雑音の様な確率的・統計的性質しか明らかでないものに対しても有効に適用することができる。本章では、フーリエ変換に関連して定義されるエネルギースペクトラム並びにパワースペクトラムが信号の統計的性質(相関)を反映し、簡単な関係(ウィナーキンチンの定理)により特徴付けられることを示す。また、これを利用することによって、雑音や確率現象の問題が巧妙に取り扱えることを述べる。さらに、これに関連して整合フィルタの概念についても説明する。
第6章 アナログ伝送
音声、画像等の信号は、その振幅に対応して電磁波の振幅や位相を変化(変調)することにより遠距離へ伝送し、元信号を抽出(復調)することが可能となる。本章では、この様なアナログ伝送について解説する。まず、信号の変復調により信号の形態がどの様に変化するか、また、どの様にして必要な元信号のみを選択的に抽出するかを電子回路構成も交えて説明する。
第7章 標本化定理とz変換
信号を一定時間間隔で抽出し、しかもある条件が満たされる場合、元信号を忠実に再現できる。これは標本化定理と呼ばれ、デジタル信号理論において重要な役割を果たす。本章では、この定理について詳細に説明する。また、標本化した信号のために拡張されたフーリエ変換に相当するz変換についても説明し、その典型的な応用としてデジタルフィルタの概要についても示している。
第8章 デジタル伝送
音声、画像等の信号を符号化して伝送するデジタル伝送では、携帯電話等に広範に利用されている。デジタル伝送であっても送受している信号はアナログである。しかし、アナログ伝送とはかなり異なった概念の基で信号の変復調が行われる。本章では、この様なデジタル伝送について解説する。まず、デジタル伝送における雑音の問題を扱い、信号の各種変復調法に言及する。最後に、デジタル伝送系に特徴的な各種フィルタについても説明する。
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