本書について ファジィのブームは去ったが多くの工業製品の中にはファジィが定着した.近年,ファジィに加えニューラルネットや遺伝的アルゴリズムなどを有機的に利用して,データの奥に潜む有益な情報を抽出するシステムが作られたり,人のような柔軟な学習能力を持つロボットが出現するようになった.こうしたものの中には,あらかじめ想定できない状況にも対応してシステムが高度に成長できるような機能が組み込まれており,ソフトコンピューティングという名称とともに多くの人々の注目を浴びている.ソフトコンピューティングの書物は高度に専門的なものか,誰にもすぐに読めるように書かれている概論的なもののいずれかが多い.しかし,大学などの教育機関でテキストとして利用するためには,自己完結的に書かれていること,難しすぎないこと,話だけでなく技術がきちんと書かれていることが必要であり,本書はそのような点に注意をはらって作成されたテキストである. ファジィ,ニューロ,遺伝的アルゴリズムのどれかを選択的に学びたい場合には,そこだけを取り出して読むことも可能であるように配慮されている. 本書の内容 第1章は,ソフトコンピューティングとは何かということから始まって,その要素技術である,ファジィ理論,ニューラルネットワーク,遺伝的アルゴリズムの由来や原理,歴史についてわかりやすく述べられている. 第2章から第4章は「ファジィ理論」の章である.まず第2章では,ファジィ理論の柱となる「ファジィ集合の概念」が,通常の集合との違いを明確にしながら述べられている.ファジィ集合の演算についてもここで具体的に述べられており,応用上重要な拡張原理もこの章にある. 第3章はファジィ理論を使うための核になる部分である「ファジィ推論」の章である.ファジィ推論にはIF〜THENルールと呼ばれるものが用いられるが,最初に,同様の形式をもつプロダクションルールとの対比がなされた後,ファジィ推論について解説され,特にファジィ関係とファジィ合成を用いて行う直接法が述べられている. 第4章は,ファジィ理論の応用として最も成功したと言われている「ファジィ制御」に関する章である.制御とはなにかという説明から始まって,ファジィ制御の具体的な方法と実例まで述べられている.また,自動車の自動制御問題を例にとり,ファジィルールの構成法の試行錯誤が具体的になされ,ルールの調整法が体感できるようになっている. 第5章と第6章は「ニューラルネットワーク」の章である.まず第5章では,「線形分離」という数学的な概念を説明するのに,試験の合格不合格という具体的な実例を結び付けて丁寧に説明が行われている.次にしきい値関数を1つ使って,最も簡単なニューラルネットワークを構成する方法が扱われている.さらに,ニューラルネットワークの基礎となった「パーセプトロン」について詳しく解説されている. 第6章では,実際に用いられることの多い,「多層パーセプトロン」について,構造や特性など,実際に使うことができるところまで詳しく述べられている.また,ニューラルネットワークに関する重要な話題がまとめられており,主要な研究の方向などを知ることができるように工夫されている. 第7章と第8章は「遺伝的アルゴリズム」にあてられている.まず第7章では,遺伝的アルゴリズムの根拠となるネオ・ダーウィニズムについて簡単な遺伝学的な説明がなされている.次に遺伝的アルゴリズムの定義,個体群と適応度,遺伝的操作,挙動などが述べられており,遺伝的アルゴリズムのメカニズムに関する一通りの知識を得ることができる. 第8章では,遺伝的アルゴリズムの応用分野として確立しつつある「最適化への応用」について述べられている.組合せ最適化および実数値における数値的最適化への遺伝的アルゴリズムの応用方法,解の性質,制約条件の扱い,多目的最適化問題における遺伝的アルゴリズムの応用方法,局所操作などについて,具体的問題に使うための配慮がなされている. 第9章は,「ファジィ理論,ニューラルネットワーク,遺伝的アルゴリズムの融合技術」が述べられている.特に,ファジィは言語的ルール,ニューロは学習能力,遺伝的アルゴリズムは構造的な発見や悪構造問題の最適化に使えるという点に着目して今までに用いられた方法のいくつかが紹介されており,これらの利点を有機的に生かす今後のソフトコンピューティングの進む方向の一端を垣間見ることができる. 付録Aは,「最適化について一通りの知識を得るための章」である.ソフトコンピューティングの問題の多くは最適化問題であることから,最適化問題とはどんなものかということを少し知っておく必要があること,およびニューラルネットワークの学習などにおいて,最適化手法が中で用いられることの2つの理由からこの内容が付録に盛り込まれている. 付録Bは,「最小二乗法に関する簡単な数学的説明」である.数値的最適化問題の多くは誤差の2乗を最小にするという最小二乗法を用いているため,読者への便宜がはかられている. このように本書ではソフトコンピューティングの特に基礎的な内容を,単なる概論にとどまらず多くの図表を用いて具体的にわかりやすく網羅して述べていることから,情報系を中心とする工学系,総合科学系,経済・経営系などの教科書や参考書として最適である.また,企業の技術者でこの分野を新しく学ぼうとしている個人やグループの参考書あるいは,タイトルに引かれて手にした一般読者の自習書としても十分期待に応ええるものであると言えよう.