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ウェーブレットの基礎
ヘルナンデス 他著
ワイス 他著
芦野 隆一 他訳
9,800円
A5 560頁
4-87653-031-9 C3055
現在,科学や工学のいろいろな分野で注目を集めているウェーブレット理論の重要性は論を待たない.ウェーブレットはどちらかといえば最近,1980 年代初頭に導入された.ウェーブレットは数学と応用が期待される数多くの異なった学問分野の人々から,かなりの興味を集めてきた.この興味の結果として,ウェーブレットに関するいくつかの本と多量の研究論文が発表されている.本書の目的は,このようなウェーブレットがいかにして構成されるかを示し,数学解析において,とりわけ強力な道具になるのはなぜなのかを説明し,どのように応用に使うかを示唆することである.


対象となる読者と予備知識

対象となる読者は,主として大学の理工学部の3回生以上の学生・大学院生,エンジニア,研究者である.

予備知識は数学科の学部学生(3回生)程度の実解析学である.具体的には,フーリエ変換とその基本的な性質になれている必要がある.可測関数などの測度論の言葉と関数解析の初歩的用語を使うが,積分の意味をリーマン積分で考えて,なじみのない用語を無視したとしても,ほとんどの結果や主張は理解できよう.


本書の特徴

本書の特徴を一言でいえば,フーリエ解析(調和解析)を駆使した1次元の正規直交ウェーブレットの数学的理論を解説した入門書ということになる.主題を1次元の正規直交ウェーブレットに制限することにより,関連する多くの話題を詳しく説明することが可能になっており,好感が持てる.叙述は丁寧で,いろいろな定理を使う際の条件のチェック等も厳密である.

著者のひとり Weiss は,原子分解(atomic decomposition)の先駆者のひとりとして著名であり, 本書のルベーグ(Lebesgue),ハーディ(Hardy),ソボレフ(Sobolev),ベゾフ(Besov),そしてトリーベル・リゾルキン(Triebel-Lizorkin)空間など数々の関数空間の特徴付けにウェーブレットを使う応用は秀逸である.また,フーリエ解析の技法を使ったウェーブレット理論における新しい特徴付けは,著者たちの新しい結果を含み,本書の核心部分である.

普通の取り扱い方とは違うコンピュータのアルゴリズムに適した特色をもつ扱いで,離散フーリエ変換と離散コサイン変換を展開し,ウェーブレットの分解と再構成のアルゴリズムを説明し,ウェーブレット・パケットまで述べていることは,数値解析的応用を強く意識したものであり,注目に値する.したがって,本書は入門書ではあるが,本書を読み終えれば,ウェーブレット研究の第一線に立つための数学的準備はできたと考えてよいであろう.


本書の範囲と類書との関係

本書では,話題を1次元の正規直交ウェーブレットに限り,一般論と新しいウェーブレットを含むいくつかの構成例を与え,多様な数学的問題に対する適用例を述べている.話題は主として純粋数学的であり,叙述も厳密かつ丁寧なので,純粋数学的教科書ということになる.

一般にウェーブレット理論は,ウェーブレット変換と(正規直交)ウェーブレット基底に大別できる.この分類によれば,本書はウェーブレット基底のみを扱っている.また,手法による分類では,ディジタルフィルタなどを使った時間領域における解析を重視する手法とフーリエ解析などを使った周波数領域における解析を重視する手法のふたつに大別できる.この分類によれば,本書は周波数領域における解析を重視する手法を主として扱っている.

類書との比較では,特に フランス語で書かれたY. Meyer の3巻本:

Ondelettes et operateurs I: Ondelettes, Hermann, Paris, (1990)
Ondelettes et operateurs II: Operateurs de Calderon-Zygmund, Hermann, Paris, (1990)
Ondelettes et operateurs III: Operateurs Multilineaires,Hermann, Paris, (1991) (R.Coifman との共著)

に対する入門書という性格が強い.

Y. Meyer の3巻本は専門書であり,数学的レベルは大学院以上と高く,いままでこの方面の入門書が待望されていた.本書は最も適切な Y. Meyer の3巻本に対する入門書といえよう.また,最新の結果を含んでいるので,オリジナルの理論の一部は,すでに出版されている類著より,単純化され,拡張されていることも注意しておく.

I. Daubechies の Ten Lectures on Wavelets, SIAM, (1992) が扱っていない話題を取り入れており,Daubechies の本を補う性格も持つ.

C. Chui による本が詳しく扱っているスプライン・ウェーブレットを,他のウェーブレットとの関連を意識して,周波数領域における解析の観点から統一的に扱っていることは,Chui の本と相補う.

ウェーブレット・パケットを含め,コンピュータのアルゴリズムに適した特色をもつ扱いで,いくつかの離散変換を解説しており,これは,M.V. Wickerhauser のAdapted Wavelet Analysis from Theory to Software (1994) で扱われている各種の話題を理論的観点から補強する意味を持つ.


本書の評価

Meyer の3巻本は,Daubechies の本と共に,数学におけるウェーブレットのバイブルといえるが,数学的レベルが高く, 近寄りがたいものがあった.本書は Y. Meyer が扱っている話題を1次元の単純な場合に限定して丁寧かつ厳密に説明することにより,これらの比較的レベルの高い話題も近づきやすくなっている.フーリエ解析を駆使するウェーブレットの本が希有の中で,本書は本格的な周波数領域における解析を重視するウェーブレット解析のユニークな入門書となっている.


本書の内容

1章から4章までが標準的な1次元正規直交ウェーブレットの理論の解説であり,5章と6章がウェーブレットによる関数および関数空間の特徴付け,7章がウェーブレットの新しい特徴付け,8章がフレームに関する話題,9章が離散変換のアルゴリズムという構成になっている

1章から4章までと7章がウェーブレットの基礎理論,5章と6章がウェーブレットの数学的応用,8章と9章は本書の主題からそれるが,重要な話題からふたつの話題を述べた構成になっている.

ディジタルフィルタを使った時間領域における解析やウェーブレット変換に関する記述がほとんどないが,話題を正規直交ウェーブレットに限って,フーリエ解析を駆使したウェーブレットの理論を詳しく丁寧に説明する本書の趣旨からはもっともなことである.

各章末には,''ノートと参考文献''という節があり,歴史的記述やさらに進んだ内容の記述があり,参考文献が引用されている.さらにこの節では,ある程度の計算は読者が解くべきものとして残してあり,演習として使うことができよう.以下各章ごとの内容を概観しよう.


前書き

Meyer が本書の内容に関連した話題の概観を述べており,重みがある.


はじめに

導入,本書の哲学,本書の内容,読者への注意にわけて述べており,平行移動(translation)と拡大縮小(dilation)という作用素とウェーブレットの関連を述べた導入はユニークであるが,理解するにはある程度の関数解析の知識を必要とする.


1章 L^2(R) の基底

短時間フーリエ変換を離散化して得られる正規直交基底があったとしても,基底関数のよい滑らかさとよい局所化は同時には満足できないことを示す Balian-Low の定理から始め,Coifman と Meyer による smooth projenction の理論をもとに,サイン関数のような関数をうまく使って,任意の滑らかさとよい局所化を同時満たす正規直交基底を構成する.
さらに,Lemarie と Meyer による正規直交ウェーブレットを構成する.またfolding operator の観点からsmooth projenction を説明する.これらの説明は,ユニークであり,正規直交ウェーブレットを関数解析的に理解する上で大切である.


2章 多重解像度解析とウェーブレットの構成

ウェーブレットの構成を統一的に説明する標準的手法である多重解像度解析の方法を丁寧に説明する.多重解像度解析の定義に現れるいくつかの条件の間の関係を調べ,これらの条件が独立でないことを示している.
Daubechies のコンパクト台を持つウェーブレットを周波数領域における解析を重視する Meyer の流儀で構成する.内容は非常に標準的である.


3章 帯域有限ウェーブレット

帯域有限,つまり,フーリエ像がコンパクト台を持つウェーブレットについて詳しく述べている.また,Lemarie とMeyer のウェーブレットもこの観点から再び述べる.これらは,7章のウェーブレット理論における新しい特徴付けにつながる説明であって,本書のユニークな点である.


4章 ウェーブレットのその他の構成

Haar のウェーブレットのある種の一般化である Franklin のウェーブレットとスプラインウェーブレットを述べている.本書のように,Franklin のウェーブレットについて丁寧に述べている本は希有であろう.


5章 ウェーブレットによる関数の表現

関数のウェーブレット展開とその収束について述べている.本書では,ウェーブレット基底をヒルベルト空間の正規直交基底としてのみならず,バナッハ空間における無条件基底として扱う.このことは,ウェーブレットを使って各種関数空間を特徴付ける基礎となる.バナッハ空間における無条件基底を丁寧に述べたウェーブレットの本としては,本書が最初であろう.ルベーグ空間における収束や各点収束が扱われ,ハーディ空間などのいくつかの関数空間も導入される.この方面の非常によい入門となる本書の優れた章のひとつである.


6章 ウェーブレットを使った関数空間の特徴付け

Shannon の標本定理から始めて,Littlewood-Paley の理論を経て,各種関数空間のウェーブレットによる特徴付けを述べている.これには Calderon-Zygmund 作用素を使うので,結果として,これらの重要な作用素の研究にどのようにウェーブレットが使われるかを見ることができる.


7章 ウェーブレット理論における特徴付け

著者たちの新しい結果を含む正規直交ウェーブレットの特徴付けを与えている.基本的な関数方程式により,多重解像度解析やローパスフィルタ,スケーリング関数の特徴付けも与えている.これらの結果はウェーブレットのフーリエ像を調べることにより導かれ,本書の主要な特徴であるフーリエ解析を駆使して行うウェーブレット理論の面目躍如の感がある.


8章 フレーム

特にフレームとそのウェーブレットに対する重要性に注意を払い,もっと一般のシステムの扱いを通して,別のタイプの基底をもっと与えている.関数を分解し,再構成することができる方法に特に注意を払っている点が評価できる.また,Balian-Low の定理を拡張している.ただし,双直交ウェーブレット(biorthogonal wavelet)に関する記述は章末に少しあるだけである.これは本書の主題からはそれるし,紙面の関係からも仕方がないことであろう.


9章 離散変換とアルゴリズム

ウェーブレット理論の応用に関連し,重要なある話題を述べている.数学的理論を離散信号に適応するとどうなるかを示している.コンピュータのアルゴリズムに適した普通の取り扱い方とは違う扱いで,離散フーリエ変換と離散コサイン変換を展開する.また,ウェーブレットの分解と再構成のアルゴリズムを説明し,最後にウェーブレットパケットで締めくくっている.ウェーブレットの数値解析的応用を紹介するユニークな章として,注目に値する.


参考文献

フーリエ解析を駆使して行うウェーブレット理論に必要な数学の文献は網羅してあるといえよう.


著者名索引

丁寧な著者名索引が評価できる.


索引

必要な項目は網羅しているといえよう.
 
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