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Mathematicaで学ぶ解析学
松本 茂樹 著
4,400円
A5 380頁
4-87653-301-6 C3033
「“図形”の研究=幾何学」という(素朴な)図式に倣うなら、“関数”の研究というのが解析学ということになろう。すなわち、種々の関数の性質の研究や、ある条件(たとえば、関数方程式)を満足する関数を求めるということが解析学の主題というわけである。

本書で取り扱うのは主として実一変数関数であり、数直線の位相構造・順序構造が深く関与した関数の解析が中心となる。具体的には、「極限」、「近似」、「(不等式による)評価」を常套手段として用いながら実関数の性質を探求していくことになるが、随所において数式処理システムMathematicaの卓越した≪計算力≫を援用しつつ議論が展開されていく。Mathematicaコマンドが関数の性質を解析的に解明する過程で実際にどのように活用されるかは、本書の多くの具体例のなかで詳細に論じられているが、読者自身がこれらの例題をMathematicaを実際に動かしながら推論を丹念に辿るならば、(さらにまた、Mathematicaが“代行”した計算の意味内容を熟考するならば、)≪理論≫と≪計算≫を融合させる≪解析学のセンス≫の涵養に資するところ大であろう。

 以下に掲げる「目次」から明らかな通り、本書で取り上げられている事項は概ね古典解析の入門的部分に属するものであるが、解析学の真髄ともいえる「近似」と「評価」の重要性を際立たせることを優先して、また、Mathematicaを常に活用することで、伝統的記述とは異なる数学的議論を展開した箇所が幾つかあり、それらがまた本書の特色ともなっている。(和が求まる“唯一の”数列である)「等比数列」に適切な「評価」を施すことで「自明ではない」結果が得られることを示した部分(そのひとつに ζ2) の算出がある)など、(必ずしも周知とはいえない議論のなかに)解析学の面白さを味わうこともできよう。

 本書の読者としては、主として、大学初年級における微積分の講義を受けた後、さらに深く解析学の領域に足を踏み入れようと志す学生を想定している。一方、Mathematicaに対する読者の習熟に関しては、コマンドの入力・実行やMathematica ノートブックの扱いについての最小限の知識を有しているといった程度で十分である。本書でのMathematicaの使用は、「組み込みコマンドを単独で用いるか、または幾つかのコマンドを組み合わせる」という範囲に限られており、プログラミングというほどのものは現れない。(特に、いわゆる「MathematicaによるCAI」という要素は本書とは無縁である。)これは、本書に現れる程度のMathematicaコマンド(およびコマンドの組み合わせ)についてはその細部にわたるまで読者がその意味を熟知している(従って必要に応じて自由にコマンドを書き換えて類似の考察に対応できる)ことが是非とも必要であり、数式処理システムを自在に御して解析的推論を進めていくという研究スタイルを身に付ける上では、欠くことができない一段階であるという考えに基づいている。なお、Mathematicaはプログラミング言語としても大変優れたもので(多彩なパラダイムが備わっており)、ほんの数行のプログラムでも驚くほど大きな仕事をこなす。本書では、いわゆる「一行プログラム」にはついては、取り扱う解析の問題に応じて適宜言及するが、プログラミングそのものを取り上げて解説することはしない。

Mathematicaの Versionについては3.0/4.0 を使用しているユーザを想定して解説されている。それ以前の Version ではパレットが使えないので入力行にキャラクタを打ち込むことになるが、同様の計算を実行させることが可能である。この場合、Mathematica kernelの能力の差から出力結果が異なってくることがあり得る。


本書の特徴

 本書は、大学初年級における微積分の講義を受講した後、あるいはこれと平行して解析学をその理論的基礎から説き起こしてより本格的に学ぼうとする学生の自修用の読本として、また、「微積分」の後を承ける解析学の通年の講義のテキストとして用いられることを想定して書かれた。数学的定義や定理の証明等、理論的な部分の記述は厳密かつ簡潔であり、明示的に理由が述べられている2,3の例外箇所を除けばすべての定理の証明は完全で、論証の連鎖は本書内で自己完結するよう構成されている。本書は、このように理論的側面において厳密性と簡潔性を保持する傍ら、古典解析における基本的な概念、定理、方法等を習得するには適切な具体例を通してそれらを使っていくことが極めて重要であるという認識から、本文中および節末・章末に多くの「問題」が盛り込まれ、さらにこれらの「問題」にはMathematicaを用いた詳しい解答が付けられている。(なお、「問題」の内のいくつかは、本書が講義におけるテキストとして使用された場合の「レポート問題」用として意図的に解答が省略されている。)Mathematicaを用いることで、(手計算と直観のみに頼る場合に較べて)極限演算等の計算可能な範囲が飛躍的に拡がり、また、豊富なグラフィックス機能や組み込み関数を活用することで、解析学の世界において“到達可能(理解可能)”な領域が拡大するといえるが、本書の「問題」の多くはこの意味で“拡大された領域”に属する、あるいは、“どれほど領域が拡大されたか”を認識するものとして注意深く選ばれている。読者は精選された「問題」を解き進むことで、解析学における認識世界のより一層深い領域で豊かな数学的経験を積むことになり、それは自ずと≪解析学のセンス≫を磨き上げることに繋がり、また一方で、“煩雑ではあるが単純な計算”はMathematicaに委ねることで、(機械任せにはできない)解析の本質をより鮮明に理解することができるような配慮がなされている。


類書との比較

 Mathematicaを用いた微積分の教科書は国の内外ですでに何冊も出版されてはいるが、それらの多くは、極限計算を実行するMathematicaコマンドの解説に終始していたり、また、(接線や区分求積法等といった)“極限的状況”を教育現場で演出するための教材提示プログラムの提供に力点が置かれているというケースも往々にしてある。
本書の意図するところは、広大な解析学の如何なる領域を深く究める際にも必要不可欠となる≪解析学のセンス≫の涵養と、Mathematicaの数式処理能力を以てしてはじめて初学者に到達可能であるような意義深く含蓄ある古典解析の「問題」(とその解答)の提示にある。本書で取り上げられている「問題」の大半は解析学の古典的名著から精選されたものである。Mathematicaを援用することで、煩雑な“計算”の部分を拭い去ることが可能となり、これらの「問題」が内包する解析の本質に鋭く迫ることが出来るようになるわけだが、本書はこのような「問題」に(Mathematicaの操作方法も含めて)詳細にわたる解答を施すことで解析学の面白さを伝えることに成功しており、数式処理システムと人智が相俟って「問題」を解きほぐしていくことそれ自体もまた本書が読者に供する解析の醍醐味となっている。


本書の構成

第1章は極限を主題とする。実数の連続性の公理について述べ、数列の収束の概念を厳密に取り扱う。等比数列の収束を考える際にも「収束性の厳密な扱い」が議論を明解にすることが強調される。対数級数の項別積分から解析学における「2,3の著名な結果」を得る。円周率を表すBBP公式を紹介する。

第2章は連続関数を扱う。一様収束、一様連続について解説を含む。

第3章は「微積分の基本定理」の証明を述べる。「導関数が正であれば単調増加」であることを実数の連続性から直接証明し、「基本定理」の証明も簡明に行う。関数の積分表示から有効な「評価」が得られることを考慮して、複素数値の実一変数関数を考察の対象に含めておく。Mathematicaのコマンドは(意味のある限り)“複素数値”に対応している。

第4章では実数の連続性を基礎にして、初等関数の構成を論ずる。

第5章は凸関数を扱う。種々の凸不等式から重要な絶対不等式を導出する。

第6章は一様評価の下での極限操作の交換の問題を論ずる。解析学において重要な役割を果たす定理の幾つかがこの範疇に属する。

第7章はフーリエ級数について論ずる。前章までで準備した定理をこの場に当てはめてみることで具体的な結果が得られる。(歴史的には古典解析学はフーリエ級数の理論とともに発展してきたのである。)

第8章でオイラー・マクローリンの和公式とその応用について述べる。ベルヌーイ数は数学の色々な場面に姿を見せる。

第9章において具体的な特殊関数の幾つかを取り上げその性質を論ずる。
目  次

第1章 数直線の位相
§1 数について
§2 フィボナッチ数と黄金比
§3 等比数列
§4 対数級数
§5 数列と級数
§6 BBP公式(円周率を表す級数)

第2章 連続関数
§1 連続関数の性質
§2 微分可能性のカラテオドリの特徴付け
§3 連続関数の空間
§4 ストーン・ワイヤストラスの定理
§5 ワイヤストラスの関数

第3章 微積分の基本定理
§1 関数の増減
§2 リーマン積分
§3 「微積分の基本定理」の証明
§4 部分積分法とその応用
§5 漸近展開
§6 スターリングの公式
§7 広義積分
§8 複素数値の(実一変数)関数

第4章 初等関数
§1 指数関数
§2 対数関数
§3 三角関数

第5章 凸関数
§1 線分凸と接線凸
§2 凸不等式とその応用
§3 対数的凸性とΓ関数
§4 ニュートン近似

第6章 極限操作の順序交換
§1 ワイヤストラスの優級数判定法
§2 関数項級数の項別積分・項別微分
§3 解析関数
§4 ルベーグの優収束定理
§5 パラメータを含んだ定積分

第7章 フーリエ解析
§1 三角関数系の完全性
§2 リーマン・ルベーグの定理
§3 「絶対収束」をみたすフーリエ級数
§4 ディリクレ核とフェエル核
§5 畳み込みとディラック列
§6 フーリエ変換
§7 ラプラス変換

第8章 ベルヌーイ数
§1 ベキ和の公式
§2 ベルヌーイ多項式
§3 オイラー・マクローリンの和公式

第9章 特殊関数
§1 Γ関数
§2 ゼータ関数
§3 超幾何関数
§4 ベッセル関数
 
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