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グラフィックスデザイニング
CAD・CGによるデザイン情報からの製品開発論
島田 哲夫 他著
原田 利宣 他著
陳 謙 他著
3,600円
A5 160頁
4-87653-012-2 C3055
本書は,概念・形状・機能・解析・生産・物流からなる製品開発プロセスに対して,「設計(デザイン)」という観点を中心に,その基本事項のみならず情報技術により様変わりしようとしている最近の動向についても,詳細に述べたものである.前著「コンセプトデザイニング」が主に概念設計について述べたのに対して,『概念』を有形・無形に関わらず『かたち』として具体化するという意味を込めて「グラフィックスデザイニング」という題を付けたられている.

バブル崩壊後,十数年の長きにわたって経済の混迷期にあった日本は,現在インターネットをはじめとするIT(情報技術)による変革の渦の中にある.すなわち,すべての産業は情報技術という社会的基盤を踏まえて再構成(リストラクチャ)されようとしているのである.なかでも工学に基礎をおく産業の変化は著しい.

 科学の基本は「分析」して「総合」することにあるが,科学を現実の世界に適用することを目指している工学は「解析」と「設計」から成り立っている.しかもそれらは相互作業を通じて質的な深まりのなかから,創出されるものであるため,広く「設計」とは「解析」を含んだ工学のプロセス全体を範疇としている.

 工学の目的は,社会にとって有用である課題に対して,科学の知識をもとに筋道を立てて解き明かし,その具体的な解決案を提示することにある.そしてその過程そのもの,すなわち物事を考え,そこから新たな“概念”を生み出すこと,さらにそれを“かたち”として具体化すること,すべてが「設計(もしくはデザイン)」であると見なすことができる.

 本書は「設計概論」,「概念設計」,「形状設計」,「解析・シミュレーション」「システムズデザイン」の5章から成り立ち,前半3章は主にグラフィックスデザイニングにおける基本事項を記述し,後半2章においては,主にITを応用した「製品開発」の新しい動向について述べている.この「製品開発」の新しい動向を探るポイントは,「製品」,「開発システム」,および「生産者と消費者の関係」という3要素にあるが,ITはこれらの概念をことごとく変えようとしている.


製品に関する概念のシフト

 たとえば携帯電話という製品はあの小さなケースに収まっているハードウェアと若干のソフトウェアのみを指すのではない.今日「製品」という言葉の持つ意味は,「機能と意匠を備えたひとつのもの」から「情報を基盤とする仕組みを含めたシステムとしての製品」という深く幅広い意味を持つようになりつつある.簡単な情報機器でさえ機械部品・電子部品・機能性材料部品を組み合わせたハードウェアと多種類のプログラムを集めたソフトウェア,さらにはインターネットをはじめとするネットワークとのリンクを考えたシステムである場合が多い.


「開発システム」に関する概念のシフト

 1960年代初頭,I.サザーランドがマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所で開発した“スケッチパット”がCADの始まりとされている.初期のCADは,それまで紙に書いていた図形をコンピュータ上で表現し,数値データとして保存することができるというだけのシステムであったが,現在では人間のおこなう設計という行為を単にコンピュータが支援するだけでなく,仮想的な空間を作り出すことによって人間の創造性を引き出す働きをコンピュータが担うようになってきている.またウェアラブルコンピュータシステムなどのように身に装着することで,コンピュータと気づかずに利用できるようなシステムの形態がさらに進んでいくであろう.


「生産者および消費者の関係」に関する概念のシフト

 産業革命以降,T型フォードに見られる大量生産システムは社会を画一化・分業化・集中化し,全体としての生活水準を向上させる有効な手段であった.しかし今日,顧客が求める「製品やサービス」を,顧客が求める「タイミング」で,顧客の「満足度の向上」を狙って提供するプロシューマ型開発システムが注目されている.製品開発において,企画から消費に至るまでのライフサイクルを通じ,ますます重要になってきていることは「情報技術の進展」と「消費者ニーズの個別化」である.

 製品開発に必要な「ニーズ」から「コンセプト」を掘り起こす概念設計,「コンセプト」を「かたち」に変える形状設計など様々な設計に関する基本事項が不必要になったというわけではない.逆に「技術の進展」と「ニーズの個別化」が進めば進むほど,ますます重要であることは言うまでもない.本書はITを踏まえた新しい製品開発論との位置づけで書かれたものである.
 
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