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チョプラ構造物の動的解析
その基礎から応用まで 改訂2版
Anli K. Chopra 著
渡部 丹 他監訳
石山 祐二 他監訳
28,000円
A5 1008頁
4-87653-231-1 C3051
本書は、クラウ/ペンゼン両教授の後継者であるアニル・K・チョプラ教授が、米国のカリフォルニア大学バークレー校での長年の教育および研究成果をもとにまとめられたものである。
 主な内容は構造物の動力学・動的解析で、特に地震応答解析については詳しく述べられている。

  どの話題についても、基礎から応用まで、非常に丁寧で分かりやすく書かれており、例題および各章末の演習問題も豊富で、他の参考書なしで独学で学ぼうとする者にとっては特に有益な本である。

  このため、学生にはもちろんのこと、構造分野に携わる実務家にも、また関連分野の研究や教育を行う者にとっても興味深く最後まで読むことができる。

 教科書として用いる場合などには、2学期の1年コースや半年コースに応じてどの章を中心に進めたらよいかについても示されており、これは独学で学ぶ者にとっても良い指針となっている。また、構造技術者に対しても、どの章を読むべきかなどについてのガイドラインが示されており、例題や演習問題の多くが実務上の問題をどのように解決すべきかを中心に構成されているので、実務を行っている者にとっても興味深い本である。

 各章の初めにはその章の概要が簡潔に述べられており、何を学ぼうとしているかを予め知ることができるので、最後にならなければ何を学んでいるのかが分からないようなことも少なく、興味が失われることなく章毎の内容を学ぶことができる。

以下では、各章の概要をもとに本書の内容の紹介とする。


第1部 1自由度系

1章 運動方程式、問題の提示と解法

この最初の章では、1質点と質量の無い支持構造から成る系としてモデル化される単純な構造物に対する構造物の動的解析の問題を定式化する。動的な力や地震によって引き起こされる地動を受ける線形弾性および非弾性構造物について考察を行う。構造物の運動を支配する微分方程式を解く4つの方法を簡単に復習する。本章の最後では、1自由度系の動的応答の考察が以下の章でどのように構成されるかについて概観している。


2章 自由振動

構造物が、静的な釣り合いの位置から放たれ、外部から動的な外乱を受けずに振動するとき、自由振動をしていると言う。

この章では、1自由度系の自由振動からはじめ、固有振動数と減衰定数の概念を学ぶ。自由振動において運動が小さくなって行く度合いが減衰定数に依存することがわかる。よって、実験結果から固有振動数と減衰定数を決定するには、基本的に自由振動の解析結果が必要である。

 実際の構造物の減衰は、同時に作用するいくつかのエネルギー逸散機構によるが、数学的に取り扱い易くするため、それらを等価な粘性減衰としてモデル化する。このため、本章では基本的に粘性減衰系を扱うが、本章の最後ではクーロン(Coulomb)摩擦減衰を持つ系の自由振動も解析する。


3章 調和的および周期的外乱に対する応答

調和的な外乱に対する1自由度系の応答は、構造物の動的解析の古典的な課題である。これは調和的な外乱が工学システムによく現われる(例えば、非平衡な回転機械による力)ばかりでなく、調和的外乱に対する応答を理解すると、構造物がその他の外乱に対してどう応答するかを推測できるからである。さらに、強制調和振動の理論は、地震工学の分野における種々の応用例に役立つ。本章のパートAでは、調和的外力を受ける1自由度系の応答に関する基本的な結果を示す。すなわち、定常応答、振動数-応答関数、共振といった事柄についてである。パートBでは、これらの結果を、構造物の固有振動数や減衰定数の実験による評価、免震、振動測定機器の設計へ応用する。等価粘性減衰に関してもパートBで扱うが、パートCでは等価粘性減衰の考えを使って、速度に依存しない減衰すなわちクーロン(Coulomb)減衰を持つ振動系の応答の近似解を求め、この解が良い近似であることを示す。パートDでは、周期的な外乱に対する1自由度系の応答を求める手法を扱う。この手法は、調和的外乱による応答結果と共に、外乱をフーリエ(Fourier)級数で表すことから得られる。


4章 任意、ステップとパルス外乱に対する応答

多くの実務的な場合において、動的外乱は調和的でも周期的でもない。よって、時間と共に任意に変動する外乱に対する1自由度系の動的応答を学ぶことに関心が向けられる。線形系に対する一般的な結果を与えるデュアメル(Duhamel)積分は、本章のパートAで導かれる。この結果がパートBで、ステップ力、線形的に増加する力、有限の立ち上がり時間を有するステップ力に対する系の応答を学ぶのに用いられる。これらの結果を用い、系の動的応答が立ち上がり時間にどのように影響されるかを具体的に示す。

本質的に単一のパルスから成る重要な外力をパートCで考える。3つの異なるパルス力に対する応答の時間的な変動を考察し、またパルスの継続時間と固有振動周期の比 の関数である最大応答を視覚的に示すため、ショック スペクトルの概念を紹介する。次に、短いパルスに対する応答は本質的にパルス形状に独立で、パルスの面積のみを用いて応答が決定できることが示される。示される解析や結果の多くは、減衰の無い系に対するものである。これは、本章の最後で示されるが、単一パルスの外乱に対する応答においては減衰による影響は通常は重要ではないからである。


5章 動的応答の数値的評価

作用力や地動加速度のような外乱が時間と共に任意に変動したり、系が非線形である場合は、1自由度系の運動方程式を解析的に解くことは、通常不可能である。この様な問題は、微分方程式を時間刻みで数値的に積分する方法で解くことができる。応用力学の広範な分野で生じる種々の微分方程式を解く方法については、教科書や多くの文献がある。それらの文献は、精度、収束、安定性など、これらの方法の数学的展開や計算機による実行を扱っている。

 しかし、ここでは1自由度系の動的応答解析に特に役立つ2・3の方法について簡単に説明する。この説明は、これらの方法の基本概念を与え、2・3の計算アルゴリズムを示すことを意図している。多くの実務的な問題や研究に応用するにはこれらで十分ではあるが、読者はこの課題について豊富な知見が他にもあることを知るべきである。


6章 線形系の地震応答

構造物の動的解析の理論の最も重要な応用の一つは、地震動に対する構造物の応答を解析することにある。本章では、地震動による線形1自由度系の地震応答を学ぶ。定義により線形系とは弾性系で、線形弾性系と呼ぶこともある。地震が多くの構造物に被害を引き起こすことがあるため、7章の主題である降伏または非線形系の応答にも関心が持たれる。

 本章の最初の部分は、単純な構造物の時間の関数である変形、内部要素の力や応力などの地震応答と、この応答が系のパラメータにどのように依存するかについて述べている。次に、地震工学の中核である応答スペクトルの概念と応答スペクトルから最大応答を直接求める方法について紹介する。続いて、地震応答スペクトルの特徴を学び、それが新しい構造物の設計や既存構造物の将来の地震に対する安全評価のための設計用スペクトルに引き継がれる。設計用スペクトルと応答スペクトルとの重要な相違が示され、一般には用いられていない二つの応答スペクトルについての議論を行い本章を終える。


7章 非弾性系の地震応答

線形弾性系の地動による最大ベースシァーは、系の重量に加速度応答スペクトル値を乗じて得られる。しかし、ほとんどの建物は、その地域で発生しうる最大の地震動に対応する弾性ベースシァーよりも小さなベースシァーで設計される。

これは、ある耐震規準による外力で設計された建物は、大きな地動を受けたとき、線形弾性挙動の限界を超えて変形することを意味している。よって、激しい地動に対して建物が被害を受けるのは驚くにあたらない。技術者に対する挑戦は、許容される程度に被害を制御する構造物の設計にある。地震が、経済的に復旧不可能なほど激しい被害を引き起こしたり、建物を崩壊させたりすれば、明らかに設計は成功したとは言えない。

 激しい地動により非弾性領域まで変形する構造物の応答は、地震工学の中心的な重要課題である。本章ではこの重要課題を扱う。弾塑性系とその系を表すパラメータを紹介し、運動方程式が示され、系と外乱を記述する種々のパラメータが示される。

降伏が構造物の応答にいかに影響するかを理解するため、弾性と非弾性系の応答を比較する。次に、ある与えられた塑性率と降伏力に対応する応答スペクトルを求める方法と、非弾性系の設計力と変形を求めるためにそのスペクトルがどのように用いられるかを扱う。弾性設計用スペクトルから非弾性系の設計用スペクトルを求める方法と、設計用スペクトルと応答スペクトルの重要な相違について論じ本章を終える。


8章 一般化1自由度系

ここまでは、1質点の1自由度系または1質点に厳密に等価である剛な分布質量を持つ系の水平運動について考えてきた。系の剛性が決まると運動方程式が直ちに定まり、それに対する解法は2章〜7章に示されたとおりである。本章では、1自由度系として扱われるが、一般化1自由度系と呼ばれる、より複雑な系の解析について述べる。この解析法は、ある一つの形状でのみ変形するように支持された剛体集合系については正解を与えるが、分布質量、分布柔性を持つ系については近似解を与える。この場合、固有振動数の精度は仮定した変形状態に依ることが示される。エネルギー保存則に基づく古典的なレーリー(Rayleigh)法によっても同様な振動数の評価を行う。また、この方法は評価された固有振動数の誤差についての判断力を与える。



第2部 多自由度系


9章 運動方程式、問題の提示と解法

第2部の最初のこの章では、有限個の自由度を持つ系に離散化された構造物に関する振動問題を定式化する。まず、簡単な多質点系に対する運動方程式が示される。弾性力、減衰力、慣性力が容易に理解できるよう、2層せん断系建物が採り上げられる。ついで、外力や地震動を受ける多質点系に対する一般的な定式化が示される。この一般的定式化は、対称平面をもつ多層建物と、非対称平面をもつ多層建物の運動方程式を求めるのに用いられる。次に、地震応答解析に関する定式化が、空間的に異なる地震動を受ける系と、非弾性系に拡張される。本章の終わりで、構造物の運動を表す微分方程式を解く方法と、多質点系の動的解析に関する考察がどのように構成されるかについて概観する。


10章 自由振動
自由振動とは、動的外乱(すなわち外力や支点地動)が作用しない場合の構造物の応答のことである。自由振動は構造物に、釣り合い状態からある初期変位を与えたり、ある初期荷重を与えることにより生じる。多自由度系の自由振動を扱う本章は3つの部分に分かれる。パートAでは、構造物の固有振動数と固有振動モードの考え方を示す。これらの考え方が線形系の動的および地震応答解析における中心的な役割を果たす(12章、13章)。パートBでは、これらの振動特性を利用して系の自由振動応答を求める。まず非減衰系が解析される。次に、古典的減衰を持つ系と非古典的減衰を持つ系における自由振動応答の相違について論じられる。古典的減衰を持つ系について、非減衰系と同じ固有モードを用いた解析法が示される。パートCでは、固有振動数と振動モードを求める固有値問題に関する数値計算を扱う。構造工学への適用ではベクトル反復法が有効であり、ここではこの方法に限定して説明する。ベクトル反復法の基本的考え方のみを述べ、サブスペース反復法やランコス(Lanczos)法には触れない。このように限定的に取り扱っても、多くの実務的な問題や研究への応用には十分である。しかし、この課題には豊富な知見が他にもあることを読者は知るべきであろう。


11章 構造物の減衰

構造物の減衰特性を定めるときに生じるいくつかの問題を本章で論じる。構造規模、構造部材寸法、使用構造材料の減衰特性から減衰マトリクスの係数を直接決めるのは実際的ではない。従って、減衰はモード減衰定数の値として一般には与えられ、古典的減衰を持つ線形系の解析にはこれで十分である。本章のパートAでは、減衰定数を定めるための基本となる実験データについて論じられ、これからモード減衰定数の推奨値が示される。しかし、非古典的減衰を持つ線形系と非線形系構造物の解析には、減衰マトリクスが必要となる。パートBでは、モード減衰定数から構造物の減衰マトリクスを作成する二つの方法が示され、古典的減衰系と非古典的減衰系について考察する。


12章 線形系の動的解析と応答

動的な力を受ける多自由度系の運動方程式を定式化する方法を示した(9章、10章)ので、これらの方程式の解について説明する。本章のパートAでは、調和的な力を受ける非減衰2自由度系の方程式を解析的に解く。この結果を用いて振動吸収器や同調質量ダンパーが、いかに好ましくない振動を取り除いたり減少させたりするかを説明する。連成運動方程式の連立解を得ることは一般には不可能なので、パートBでは古典的なモード解析法を展開する。運動方程式はモード座標へ変換され、非連成モード方程式となり、各々のモード方程式は応答へのモード寄与率を求めるために解かれ、これらのモード応答が全応答を得るために結合される。動的解析に含むべきモード数を決定するため、パートCでは各モードの応答への相対的な寄与について理解する。本章の最後のパートDでは、非古典的減衰を持つ系の様な、特別な場合に役立つ3つの解析法を説明する。


13章 線形系の地震応答解析

本章では、質点系としてモデル化される構造物の地震応答解析法を展開する。説明は2つのパートより成る。パートAは、与えられた地動加速度を系が受ける時、時間の関数として構造物の応答を計算する方法を扱う。この時刻歴応答解析法は、最初に任意の構造形状について示され、続いて対称平面の多層建物と非対称平面の多層建物に対して特に示される。対称平面の建物の捩れ応答についても簡単に論ずる。パートAは地動の一方向成分、すなわち水平方向成分の一つを主に扱う。外乱の各々の成分に対して独立な解析から求められた構造物の応答を結合すると、多方向入力に対する線形系の応答が与えられる。各々の支点で異なる運動を受ける構造物の応答を解析する方法も展開される。パートAは、解析から予知される構造物の応答が地震の際の記録と満足できる程度に一致するため、構造物のモデル化が満足しなければならない主要な条件について簡単に述べ終了する。

 パートBは、構造物の時刻歴応答解析の必要がない、地震応答(設計用)スペクトルから地震時の構造物の最大応答を直接計算する方法に関心が向けられる。応答スペクトル解析法として知られているこの方法は、最大応答の厳密な予測ではないが、構造設計という応用に対しては十分正確な評価である。この方法が、任意の構造形状について示され、次に多層建物に対して特に述べられる。


14章 自由度の縮合

本書の目的は動的外乱に対する構造物の解析であるが、実務においては動的解析に先立ち固定荷重と積載荷重に対する静的解析が行われる。静的解析に対する構造物のモデル化は構造物の複雑さに依存し、複雑な構造物の内部要素の力や応力を正確に評価するには数百から数千の自由度が必要になる。

 構造物の動的解析においても同様に精緻なモデル化が用いられることもあろうが、これは不必要に精緻であり、これより極端に少ない自由度で十分である。多くの構造物の動的応答は最初の2〜3の固有振動モードで表すことができ、これらのモードは静的解析に必要な自由度より極端に少ない自由度で決定できるからである。よって、動的解析の最も重要な面であろう固有振動数とモードを計算する前に、合理的に可能な限り自由度を少なくすることに関心が向けられる。

 本章では、ある選択された自由度への質量の集中とレーリー−リッツ(Rayleigh-Ritz)法という自由度を縮合する二つの方法が示される。これらの方法について示す前に、構造特性に基づく動的制約が静的解析に対する構造物のモデル化の自由度をどのように縮合させるかについて述べる。このモデル化が動的解析の出発点である。


15章 動的応答の数値評価

これまでは、線形弾性範囲内で応答する古典的(比例型)減衰の多自由度系について、主にモード解析から述べてきた。12章で示したように外乱が単純な関数ならば、非連成のモード方程式は陽な形式で解くことができるが、地震動のように複雑な外乱のときは13章で述べたように5章の数値解析法を必要とした。振動系が非古典的(非比例型)減衰である場合や非線形領域で応答する場合には、非連成のモード方程式に分解することはできない。そのような系では、連成運動方程式を数値解析法によって解く必要がある。この数値解析については多くの教科書と文献があるが、本章では、1自由度系について5章で説明した方法に基づく2・3の方法をあげる。それらの方法を実行するために必要な基本的考え方と、数値解法のアルゴリズムについて説明する。


16章 分布質量・弾性を持つ系

これまで本書は離散化した振動系を対象としてきた。典型的なものは集中質量で表される系で、それは質量がある剛な部分(多層建物の床ダイアフラムなど)と質量がない弾性の部分(梁や柱など)の集合体である。本書の大部分は2つの理由から集中質量の離散化振動系の説明に充てている。理由の一つは多くの種類の建物、特に多層建物を有効にモデル化できること、二番目には離散化系の運動を支配する常微分方程式を解くコンピュータによる計算を実行するのが容易なことである。しかし、応用し易いとはいうものの集中質量系へのモデル化が自然な手段とはいえない種類の構造物がある。例えば、煙突、アーチダム、原子炉格納容器などである。

 本章では、梁や塔など分布質量を持つ1次元振動系構造物の動的問題をとりあげ、均質な梁や塔などの単純な系の解を示す。これらの例について示した解は、無限の自由度を持つ分布質量系の動的解析の特徴、および有限な自由度の集中質量系との相違について理解する洞察力を与える。本章の終わりでは、この無限の自由度を持つ系として扱うことが実際の構造物では現実的ではない理由を示し、分布質量系を離散化する方法の必要性を述べる。分布質量の単純な系について得られた理論解は、17章の離散化した方法によって得られる結果との比較に用いられる。


17章 有限要素法入門

無限の自由度を持つ分布質量系の古典的な解析法が実際の構造物には適さない理由を16章で説明した。本章では、1次元の分布質量系を離散化する2つの方法、レーリー−リッツ(Rayleigh-Ritz)法と有限要素法について説明する。離散化によって、偏微分支配方程式は離散化した自由度と同じ数の常微分方程式に置き換えることができ、これは10章から15章で述べた方法によって解くことができる。整合質量マトリクスの概念を説明した後、片持梁を例として整合質量または集中質量マトリクスを用いた有限要素法によって求められる固有振動数の近似解の精度と収束について示す。本章の最後では、有限要素法の連続体構造の動的解析への応用について簡単に説明する。

第3部 地震応答と多層建物の設計

18章 線形弾性建物の地震応答

多自由度の線形弾性系構造物の地震応答を計算する方法として、時刻歴応答解析と応答スペクトル解析の二つの方法を13章で示した。本章では、設計用スペクトルによって地震外乱の特徴を表す応答スペクトル解析法を用いた多層建物の地震応答を扱う。対象建物の特性を表す2つの主なパラメータは、基本固有振動周期と梁−柱剛性比である。これらのパラメータが、建物の地震応答や各固有振動モードの応答の相対的寄与にどのように影響するかを、この結果から理解することができる。また、ここで示す結果から、全応答を近似するのに1次モードのみまたはそれと2次モードで十分である条件を理解することができる。建物の応答における高次モードの重要性を知ることは、動的解析を考慮した耐震設計基準の等価静的地震力を評価する21章で役に立つ。


19章 非弾性建物の地震応答

7章で述べたように、強い地動を受けると建物は線形弾性挙動の限界を超えた変形をすると予想される。この非弾性領域で変形する建物の地震応答は地震工学における最も重要な課題であり、本章ではこの問題を扱う。まず、多層建物と1自由度系に対する地震外乱による必要塑性率の違いを確認する。次に建物の層の変形や層の必要塑性率の高さ方向の変化が各層の相対的な降伏耐力に関係していることを示す。特に、第1層が上層に対して「弱い」または「柔らかい」と降伏は第1層に限られ、この場合には上層は弾性のままであるが第1層には大きな必要塑性率が要求される。次に、1994年米国標準建築規準に決められた水平力に対して設計された建物の必要塑性率、またそれと許容塑性率の関係について学ぶ。その後、規準の高さ方向の設計力分布に関連して、層の必要塑性率が許容値を超えないよう保証するために必要なベースシァーを決める方法を示す。最後に、入門編的な本章では説明できない建物の非弾性地震応答に関する種々の複雑な問題を示す。


20章 地震動を受ける免震建物の動的解析

地震による建物の揺れを免れる何らかの支持機構を挿入することにより、地震被害から建物を守る考えは興味深く、これを達成しようとする多くのメカニズムが提案されてきた。このような提案は100年近く溯れるが、免震が耐震設計の実用的な方策になってきたのはほんの近年のことである。本章では、なぜまたどのような条件の下で免震が構造物に作用する地震力を低減させるのに効果があるかを理解するために、免震システムで支持された建物の動的挙動を学ぶ。免震技術は現在急速に進んでいる分野であり、実験、システム装置の機構開発、非線形動的解析、計画中のプロジェクト、振動台実験、現場での設置、性能確認など免震に関する多くの文献がある。


21章 建築規準における構造物の動的解析

ほとんどの耐震建築規準では、構造物の特性とその地域の地震活動度に基づいて規定される静的水平力に対して抵抗するように構造物を設計する必要がある。構造物の基本固有振動周期の評価に基づき、ベースシァーと建物の高さ方向の水平力の分布を示す式が規定されている。これらの外力に対する建築物の静的解析は、各階のせん断力と転倒モーメントなどの設計力を与える。規準によっては静的に計算した転倒モーメントの低減を許容しているものもある。パートAでは、米国標準建築規準、カナダ建築規準およびメキシコ連邦区規準の三つの建築規準の耐震設計規定を、6章、7章、8章および13章で学んだ構造物の動的解析理論との関連にもふれて説明する。ただし本章で説明する内容は上記規準の全てではなく、本書の内容からは評価できない規準の内容については省いているかちょっと触れる程度である。省略した内容は、当該地の地盤条件の影響、鉛直軸回りの捩れモーメント、水平地動2成分の同時作用による地震力の組み合わせ、靭性的挙動を保つための構造物のディテールへの要求内容などである。本章のパートBでは、18章と19章で説明した建物の動的解析の結果を参照して規準の内容を評価している。


 ほとんどの規準では応答スペクトル解析と時刻歴応答解析両方の動的応答解析手法を用いることが可能となっている。これらの手法について規準に記されている内容は、13章で説明した内容と基本的に同じなので本書ではとりあげない。

 
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