本書の特徴の2番目として、単に通信標準をコピーしてきたり、それを要約したりするのではなく、標準を出発点としてネットワークの重要な概念がどのように実システムに適用されているかを示している点が挙げられる。その理解を助けるために、イラストや具体例、実システムにおける使用例などが豊富に示されている。特に、時分割多重(TDM: Time Division Multiplexing)とATMの比較、ATMの平易な説明、現在利用可能なATMシステムの詳細な比較、ATMトラヒック管理技術、さまざまな通信技術との比較、ATMの将来像なども詳しく書かかれている。その結果、データ通信の管理者やネットワーク設計者、データ通信やコンピュータ通信を勉強する学生の双方にとって有益な解説書となっている。さらに、ATMネットワークの運用や管理についても詳細な説明を行なっており、また、ATM技術に基づいたインターネットワーキング技術についてもフレームリレーやSMDS、IPをATM上で提供する手法について詳細な分析を行なっている。従って、ネットワーク技術者、ネットワーク管理者、ネットワーク設計者、プログラマやプログラムマネージャ、経営情報システム担当者などの専門技術者の他、販売やマーケティング関係者、ATM通信技術の利用者などにとっても有益な参考書となるものである。さらに、会社経営者がATMの概要を知りたい場合や、ATM技術/サービスをどのようにして事業に役立てることができるか知りたいという場合にも有用であろう。また、本書では、さまざまな手法を用いて従来の型にとらわれないネットワークに対する見方を示している。イーサネットやインターネットが世界を席巻した一方、ISDNが成功しなかったのを見ればわかるように、音声通信で用いられてきたネットワーク構成のパラダイムがそのまま将来のデータ通信にも適用できるとは思えない。現在、データ通信の柱となっている諸々の技術の今後の発展には、まだいくつかの障害がある。例えば、アプリケーションとATMとの間を橋渡しするものや、ATMを用いた経路制御や相互接続、いたる場所からのネットワークアクセスへの対処などは重要な問題であり、詳細な解説が加えられている。特に本書の最後に示されている、ATM技術と他の技術、すなわち、フレームリレー、パケット交換、セル交換技術やLAN技術との比較は、今後の情報通信ネットワークの将来像を展望する上で格好の教材となろう。