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これならわかる微分積分学 |
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風巻 紀彦 他著
葛 晋治 他著
小林 久壽雄 他著 |
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3,600円 |
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A5 498頁 |
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4-87653-361-X C3055 |
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本書は,大学初年級の理工系の学生を対象とした微分積分学の教科書・参考書である.この種の本は,昔から数多く出版されているが,近年の高等学校学習指導要領の改訂,大学入試の多様化,大学教育の改革等により,微分積分を受講する学生の学力や予備知識に大きな変化が生じているため,新たな事態に対応し得る教科書・参考書が必要となっている.
本書の主な内容
(1) 数列や級数の収束性
(2) 連続関数の性質
(3) I変数の微分
(4) I変数関数の積分
(5) 多変数の微分
(6) 多変数の積分
(7) 微分方程式とその応用
であり,単に大学初年級の教科書としてだけではなく,学部4年間あるいは大学院を通じ参考書として活用できることが,本書の基本方針の一つになっている.
極限の概念については,微分積分学における基礎概念の中でもとりわけ重要であることから,ある程度正確な説明がなされている.他方,理工系の分野で頻出する関数等が多く取り上げられ多数のグラフや図が駆使されていて,曲線や空間図形の様子,近似の程度等が理解しやすい.
なお,殆どの学生が,大学入学の時点で,具体的に極限値を求めたり,2次関数や3次関数等の簡単な関数の微分や積分についてはかなりの計算力を有しているという理由により,高等学校で学んだ計算法則の証明は省略されている.
本書の特徴
現在の大学のカリキュラムは,平成3年の大学設置基準の改正により,4年一貫教育に従っている.この教育システムは,旧来の教育システムが教養教育は教養部,専門教育は学部という横割型の方式であったのと異なり,1年次から専門の基礎教育を実施することが可能となっている.同時に,教養科目もまた4年間を通じて配置されている.この4年一貫教育は,教養教育と専門教育の乖離を指摘されていた旧教育システムの問題点の解消を意図するものとして一応評価できるが,一方において,専門教育のレベルを如何にして維持するかが大きな問題となってきている.さらに,高等学校学習指導要領の改訂や大学入試の多様化もあり,新入生の学力は一様ではなくなっている.このような理由から,学部4年間で高度の専門性を修得するのは最早無理であって大学院修士課程までを視野に入れる必要がある,という声さえ聞かれる状況になっている.
本書は,著者達が富山大学において平成5年以降新教育システムに基づいて講義してきた経験を最大限活かして執筆したものであり,似たような状況にある他大学の理工系新入生にとっても,絶好の教科書・参考書となるであろう.理工系の分野で実際に頻出するものを例題や問題として取り上げており,学部4年間あるいは大学院を通じて身近な参考書として活用できる点も特徴の一つといえよう.とくに,積分の計算技術と微分方程式の解法について詳しく解説されている.
類書との比較
数学に限らず,難しいことを分かり易く解説するのは簡単ではない.本書では,学力が多様な学生の存在を念頭において,厳密な論理展開に徹するよりは,なるべく分かりやすい叙述に重きを置いている.初歩的な例を数多く紹介し,それらを活用して丁寧に解説されているため,微分積分の参考書としては,かなり分厚くなっている.
とくに,積分に関しては,確率論等他分野への応用を重視する観点から,有理関数,三角関数,無理関数等さまざまな関数に対する積分計算の習熟に重点が置かれている.さらに,理工系の分野では,微分方程式を解く必要性に迫られる場面が多いことから,本書では,さまざまなタイプの微分方程式がとり上げられており,他の類書よりも詳しく解説されている.
また,読者が効率良く理解できるような工夫も認められる.たとえば,無限級数については,通常は,級数の一般的な説明から入り,正項級数,絶対収束級数,交項級数,条件収束級数の順序で述べられているが,本書では,一般的な説明の後,交項級数,条件収束級数,正項級数,絶対収束級数の順序で解説され効率が良い.
また,Taylorの展開定理は,通常,Rolleの定理から入り平均値の定理,Cauchyの平均値の定理を述べた後で証明されているが,この大定理は,Rolleの定理から直接証明できるため,本書では,Rolleの定理,Taylorの展開定理,平均値の定理,Cauchyの平均値の定理の順序に変更され要領良く説明されている.その他,グラフや図をできるだけ活用し,さまざまな曲線や空間図形あるいは近似の様子などを視覚的にも理解できるような配慮がなされている.
本書の構成
実際に講義する場合,一般論から始めれば教える側は楽であるが,受講生にすれば具体的なイメージを得るのは難しく,講義内容を理解できずに終わるケースが多い.その意味で,本書は,1変数の微分積分から2変数の微分積分へという自然な流れに従い
第1章 関数と極限
第2章 微分
第3章 積分
第4章 偏微分
第5章 重積分
第6章 微分方程式
という構成になっている.
第1章では,数列や級数の収束性,連続関数の基本的な性質が述べられ,極限の概念が丁寧に説明されている.
第2章は,1変数関数の微分が主題である.
第3章では,1変数関数のリーマン積分が導入され,三角関数,有理関数,無理関数等のさまざまな関数に対する積分の計算方法が紹介されている.
第4章,第5章では,2変数関数を対象として微分と積分の概要が述べられている.
最後の章で,微分方程式の解法について詳細な紹介があり,理工系の学生にとって大変参考になるものと思われる. |
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