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マルチンゲールと確率積分
風巻 紀彦 著
6,980円
A4 352頁
4-87653-362-8 C3041
 本書は,同じ著者による「マルチンゲ−ル理論入門」の連続時径数版である.確率論や解析学の若手研究者および理工系の大学院の学生を対象として,連続時径数のマルチンゲールと確率積分の理論が解説されている.とりわけ,指数型のマルチンゲール,Girsanov変換,BMO-マルチンゲ−ルについての詳細な解説は,本書の大きな特色である.


本書の構成

 第I部は,第1章「確率論の基本事項」と第2章 「マルチンゲ−ルの基礎」から成り,第II部,第III部で必要となる概念や定理等が述べられている.とくに条件付平均値は,マルチンゲ−ル理論における最も基本的な概念であるが,これを理解するにはRadon-Nikodymの定理という高いハードルを越えなければならず,しかも,その証明の難しさが条件付平均値を理解し難いものとしている.このため,本書ではBradley による直接的な証明法が採用されハードルを低くする工夫がされている.また,有名なDoobによるマルチンゲール収束定理については,Doob自身のオリジナルな証明が紹介されている.

 第II部は,第3章「確率積分」,第4章「Itoの公式とその応用」,第5章 とから構成されている.第II部では,マルチンゲールの連続性が仮定され,Kunita-Watanabe (1967)によるマルチンゲールの確率積分とItoの公式が紹介されている.確率積分論が飛躍的に発展する契機となったDoob-Meyer分解定理は,Meyer自身の証明の他に,Dol'eans-Dade (1968)とRao (1969)による証明が知られているが,ここでは,Raoの証明法が採用されている.また,近年数理ファイナンスとの関連でマルチンゲール理論に対する関心が高まっていることから,指数型マルチンゲールや確率測度の変換に伴って生じるGirsanov変換について詳細に述べられている.さらに,Hermite多項式と指数型マルチンゲールの関係についても詳細に説明されている.これらは,本書の特色である.その他,Fourier解析からの影響を受けて発展してきたH^p--BMO理論の概要が述べられている.第II部の後半では,Feffermanの共役定理,John-Nirenbergの不等式,逆H"older不等式等BMO-マルチンゲールに関する重要な結果が紹介されている.

 第III部は,第6章「確率過程の可測性」と第7章「確率積分一般論」から構成され, Strasbourg学派による確率過程論と確率積分論を一般的な設定の下で解説することが目的である.確率過程は,時間 tをパラメーターとする確率変数 X_t の族X = (X_t)_0 ≦ t<∞として定義されることが多いが,MeyerをリーダーとするStrasbourg学派は R_+ ×Ω 上の可測関数

X : (t, ω) |→ X_t(ω)

を確率過程と見なし極めて精緻な理論を構築している.そこでは, R_+ ×Ω 上の測度論が必要となり,確率過程に対する可測性の問題も生じてくるが,第6章において,それらが要領良く説明されている.また,第7章では,Dellacherie-Meyer の流儀に従って,一般的な設定の下での確率積分論が展開されている.
 
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